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心理学×医工学~心理性の痛みの可視化とケアについて


「心理学×医工学~心理性の痛みの可視化とケアについて」
 日本女性ヘルスケア協会長 鈴木まり

 先日、東北大学医学部麻酔科が主宰するペインクリニックの講義を1カ月間に渡り受講しました。 現代における痛みの治療最前線や麻酔薬の種類、痛みのメカニズムと種類、今後の研究テーマや課題等を学びました。 

 私が介護現場にいた20年前と比べて、現在においては、医療現場でメンタル的なケアも含まれていたり、各行政で他業種連携のモデルがつくられ実施され始めており、随分時代が進んだなという印象でした。

 さて、今回はこの1ヵ月講義で提出したレポートに加筆し、今後のテーマについてお話ししたいと思います。

 「痛み」と言っても種類はさまざまです。
 痛みは、時としてストレスの大きな原因にもなります。
 皆さんも一度はご経験があるかと思いますが、夜間になるとあれやこれやと考え込んでしまい不安が増しますよね。そういった心理性からくる痛みとその可視化の可能性について、そして、今後のテーマについて再考していきたいと思います。

■心理性の痛みがある利用者の行動特徴
 コロナ禍でオンラインカウンセリングを開始すると、ほとんどの場合に0時以降の深夜帯に申込メールや相談のメールが集中しました。また、入院中の患者が消灯後に申し込みをしてくることもあります。

 実際にカウンセリングの申し込みがあった時間ごとの分布は以下の通りで、深夜0:00~4:00に集中していることが分かります。

【オンラインカウンセリング申込時間(受信時間)※30名のクライアントの申し込み時間動向】
・6:01~8:00   :1名
・8:01~12:00  :0名
・12:01~16:00 :0名
・16:01~20:00 :0名
・20:01~22:00 :0名
・22:01~0:00  :1名
・0:01~2:00  :19名
・2:01~4:00  :8名
・4:01~6:00  :1名

  コロナ禍でオンラインカウンセリングを開始すると、ほとんどの場合に0時降の深夜帯に申込メールや相談のメールが集中しました。また、入院中の患者が消灯後に申し込みをしてくることもあります。
 この時間帯の分布をみると、利用者のほどんどが就業者なので慢性的な睡眠不足も推測ができます。
 就業中においては、外部への連絡が取りにくいなどの理由もあると思いますが、就業時間終了時、または、食事の時間の後など、夜間であっても20:00~23:00頃に集中しても良いように感じます。 しかし、実際には0時を回った深夜に集中しています。 実際カウンセリングを実施していくと、ほどんどの方が睡眠障害を実感しており、就寝しようとベッドに入ったものの不安が大きく眠れない、次々と頭に浮かんで悩んでしまうという方が多いです。

 特に精神不安の強い利用者は、ストレス性の頭痛や喉の痛み、胸部の痛みを訴えることも少なくありません。こういったい症状がある方は、ようやく寝付けても、睡眠中に胸部不快を感じて起きてしまい、不安になって朝まで眠れなくなるということも多く見受けられます。

■心理性の痛みにおける可視化の可能性
 「痛み」や「不安」というのは個人の感覚に依存し、可視化することがとても難しい分野です。 痛みを可視化出来ればより具体的なケアが可能になりますが、実際は個人差をどのように測るか非常に難しい。しかし、夜間不安など心理要因における痛みの可視化には可能性があるようです。
 
 参考にするのは、当協会の理事でもある、慶応義塾大学大学院政策メディア研究科・野田啓一研究員による「電子メールコミュニケーションの解析によるストレス状態の可視化」という研究で発表されたストレス状態可視化システムと、その基本構成です。

 基本構造を簡単に説明すると、「メールクライアント」と「相手メールサーバー」との間に「送受信のモジュール」を設置し、更に、「送受信記録」を「健康判断モジュール」で繋ぐというシステムです。
 本研究では個人的なプライバシーを尊重し、利用者の電子メールの送受信記録を解析することに着目し、ストレス情報を個人単位に定量化し、数値化、管理できるものとして開発されました。

 全ての痛みの可視化には様々なテーマがあり、とても難しい分野ではありますが、心理不安のある利用者の行動特徴から「心理性の痛み」においてはこの野田先生の開発したシステムを応用し、インターネットへのアクセス解析や電子メールの時間解析等、可視化できる可能性があるように感じます。

 既にGoogleをはじめとする、GAFAは各個人の検索ワードや検索時間などの巨大なデータを基に、ヘルスケアの研究も進めています。こういったビックデータを持つところと提携し、電子メールやアクセス時間の解析などを組合せることによって、夜間不安、または心気症などによる心理的な痛みのケアを可視化し、より具体的なケアが進む時代が来るでしょう。

■心理性の痛みケアにおける今後のテーマ
 既に各地域において多職種連携のチーム医療というモデルが確立しています。
次のフェーズとして挙がってくるのが、その具体性と利用者の満足度です。
 心理学の分野において利用者のケアですぐにでも導入可能なシステムと言えば、遠隔システムを使っての術後痛からくる不安因子を取り除くオンラインカウンセリングが一つ上げられます。
 これは前述した通り、既にニーズとしてあり、人材の確保とネットワークの構築さえあれば導入が可能です。
 また、遠隔システムを利用することで、臨床心理士を設置していない病院でも外部提携で人材確保も可能になることに加え、心理士が直接病院へ出向しなければならないという労働負担も減らせます。
 または、看護師資格を有していながら現在看護師として活動していない人材や、引退したベテラン看護師の活用でオンラインでの緩和ケアにも可能性があります。
 そうすることで、何かとナースコールで呼び出される夜勤看護師や介護士の負担の軽減、看護師不足と言われるこの時代のピースを少し埋められることでしょう。
 今後は、ITを活用した可視化と、データに基づいた新しい形での人材確保、必要なとことに必要な具体的なケア、労働負担の軽減など次なるテーマが露出しています。
 人様のケアに携わるひとりとして、各行政や病院などに積極的にアプローチしていければと思っているこのごろです。 
 そして、いま最も必要なのは、みなさんひとりひとりがこういったことに課題意識をもって他業種連携で何ができるかを一緒に考えていくことだと感じています。