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世界の女神の正体をホルモンで探る~愛情ホルモンとは


世界の女神の正体をホルモンで探る~愛情ホルモンとは

             日本女性ヘルスケア協会長 鈴木まり

これまで出版してきた書籍で必ず触れているホルモン、"オキシトシン"
今月は、このオキシトシンについて触れていきたいと思います。

オキシトシンは、過去には"母性ホルモン"と呼ばれていた通り、胎児が過ごしやすい母胎の環境を整えたり、出産を促したり、母乳を促したりと、母親になる為に必要なホルモンとして認識されていました。
しかし近年においては、"母性ホルモン"という垣根を超えて、"幸せホルモン""愛情ホルモン"として認識されてきています。
私が各書籍で紹介している内容もこの分野についてです。

肌と肌との触れ合い、体温の受け渡しなど、愛情形成、アタッチメントの基本行動がこのオキシトシンの分泌を促します。
赤ちゃんを抱っこして癒される、ペットを撫でてホッとする、好きな人に抱きしめられると、ふぅ〜っと息が抜けて肩の力が自然と抜けるなど、オキシトシンが分泌されると、脳とカラダの強張りが一気に解放され、痛みすら緩和されます。
こう言った反応や経験によって、オキシトシンの分泌を"促してくれる"その対象は、私たちにとって"大切なもの"と無意識に認識されるのは言うまでもありません。

さて、私たちを幸福に導いてくれるこのオキシトシンですが、表の顔もあれば、裏の顔もあります。
私たちの生活を翻弄するこのホルモンについてもう少し深掘りしてみていきましょう。


人類の進化にも関わるオキシトシン
私たちの祖先は、現在のように社会が拡大する以前は、数十人単位でのグループで生活していたといいます。そのグループ内に属している人間同士は、いわば“家族”であり、みんなで守り合いながら生活を共にする共同体でした。つまり、この共同体は互いに「守るべき存在」ということです。
この「守るべき存在」と認識させていたのが、オキシトシンなのです。

やがて、このオキシトシンの分泌が盛んにおこなわれることによって、私たちの祖先はグループ人数を拡大していった歴史があります。

グループ人数が膨れるにしたがって、オキシトシンの分泌によるコミュニティ内の脳の同期も盛んにおこなわれていったの可能性が大きいです。

この「守る」という行動は、逆を言えば、「外敵を攻撃する」という行動にも置き換えられます。


●「トロッコ問題」というオキシトシン実験
オランダのライデン大学の心理学者が行ったオキシトシンの実験を紹介します。

対象者に、点鼻でオキシトシンを吸引して脳に届かせたあと、トロッコの映像を見せるという実験です。

線路上にいる作業員に自国民によくある名前をつけた場合と、外国人のゆかりのない名前をつけた場合に、犠牲にするかどうかという実験なのですが、オキシトシンを吸引した後には外国人の名前の方を犠牲にする選択をした者が多数でした。

この実験の解釈に注意しなければいけないのは、これは、敵対心ではなく「仲間を守る働き」から仲間以外を線引きするという行動だということです。

つまり、オキシトシンは協力性を高める作用があるということなのです。

 

●オキシトシンと戦争
本来協力して食糧捕獲を行い共同生活をしてきた人間にも変化が出てきます。

特に日本では、農耕による水田開発が盛んにおこなわれる頃になると、水の権利をめぐって争いが勃発し、本来狩猟の為の道具が徐々に武器化し、殺戮の道具へと変わっていってしまったのです。

さらに文明開化が進みにつれ、銃などの飛び道具が開発されると、権利を守り、自国を守るという名目で、殺人殺戮が横行し、世界中で混乱の時代も幾度も経験してきました。

更にそこに、マスコミが発展してきた中世の時代にあった“30年戦争”では、プロテスタント勢力は印刷技術でビラを撒き、マスコミ戦を繰り広げました。マスコミにより民衆があおられ、結果800万人が犠牲となる痛ましい歴史も刻まれています。その他にも、世界で横行した“魔女狩り”なども有名ですね。

自国を守る、家族を守る、自身のコミュニティーを守るという愛情ホルモンの裏には、愛情ゆえの恐ろしい一面もあるということを私たちは知っておく必要があります。


●母性におけるオキシトシン
「妻が出産後狂暴化」これは男性からご相談の多い内容ですし、出産後に夫にいら立ちを覚えるようになったという妻たちからも相談の多い内容です。

これも、「子どもを守る」為にオキシトシンや様々な母性ホルモンの分泌が必要なのですが、子どもに危険を近づかせない行動として、母親以外の人間が子どもに近づくことに過敏に反応してしまうというのも、オキシトシンの、「守る=攻撃する」の一つの表れだと言えますね。

●神話におけるオキシトシン
オキシトシンについて調べれば調べるほど、特にアジアにおける神話と照らし合わせると、古代人は既にこのオキシトシンの正体を知っていたのではないかと感じます。

インド神話に登場するシヴァ神の妻サラスバティという女神は、まさにすべてを包み込む大きな愛情の象徴。しかし、その裏の顔にはカーリー神という一面を持っています。

カーリー神は全身真っ黒で長く赤い舌を垂らし、男たちの首を借り、その男たちの生首のネックレスを首に下げる惨殺の神です。つまり、サラスバティはキレるとヤバイ女神なのです。

日本神話も同じく、私たちが普段神社で手を合わせる神々の頂点である太陽女神、天照大神(あまてらすおおみかみ)の裏には、瀬織津姫という荒神の顔があります。

つまり、アジアの歴史に登場する頂点に君臨する女神の正体は、実は“オキシトシン”なのではないかと考えるわけです。

これまで、愛情ホルモンとして紹介してきたオキシトシンですが、全ての物事にはその真逆の裏の顔も抱き合わせているということを知らなければなりません。

そういったことも含め、私たちは改めて「愛情とはなんなのか」ということを考えていかなければならないのです。