「漢方と免疫ケア」 vol.5
漢方専門医 五野由佳理
昨今、全世界がコロナ禍に陥っている状況の中で、自分が感染しない、人に感染させないことが、皆さん誰しも考えていることだと思います。
私たちが出来ることと言えば、もちろん、手洗い・うがい・マスク、そして3密を避けることですが、自己免疫の力を上げるために、少しは漢方の知識も取り入れてはと思い、今回、皆さんにお伝えしようと思います。
■免疫力とは?
免疫力とは、色々なウイルスや細菌など体に異物が入ってくるのを防ぐ力です。
免疫力が高いというのは、「元気である」ということです。
この「元気」の『気』というのは、西洋医学にはない漢方医学の特有な概念です。
『気』は、生命活動エネルギーのことで、免疫力を上げるためには、この『気』を強めることが必要です。
■【気】を高める方法と漢方の適用
『気』を強めるためには、第1として、「皮膚のバリアー機能を高めよう」です。
漢方では、血管外に流れている『気』を「衛気(えき)」と言い、汗の調整や体表を保護する働きがあると言われています。
この「衛気」を強めることによって、ウイルスなどの感染から身を守ります。
これを強める作用のある生薬(薬効をもつ天然物)の1つに「黄耆(おうぎ)」があります。マメ科の植物の根で、免疫に関係するNK細胞やマクロファージを調整する作用が確認されています。
第2として、「胃腸を強めよう」です。
エネルギーの元となる食物をちゃんと消化できるようにして、身体に『気』を蓄えていきます。
漢方では、胃腸を強める薬は色々とありますが、特に体力が落ちている人に用いる生薬の1つに「人参(にんじん)」があります。
食用のニンジンはセリ科ですが、薬用はウコギ科のオタネニンジンの根です。こちらも、免疫調整作用や抗加齢作用が確認されています。
この「黄耆」と「人参」の両方が含まれている漢方薬に補中益気湯(ほちゅうえっきとう)という処方があります。
胃腸の働きを良くして体力アップを図ります。
年中繰り返しかぜをひく人がひかないようになったり、季節の変わり目になると毎年体調を崩し、入院されていた高齢の人が入院することがなくなったりというのを経験します。
最近では、コロナ禍で体力が低下されている方には、予防的に服用してもらうこともあります。
他にも、気力体力が落ちて、爪がもろくなったり、髪が抜けやすくなったり、皮膚の乾燥が目立つような方には、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)という処方があります。
こちらにも「黄耆」と「人参」が含まれていて、名前のとおり大いに補う薬です。
女性の方だと、月経周期に関連して異常な疲労感を感じる時や、膣炎を繰り返し起こす場合に良かった経験があります。
■日ごろのケアのススメ
漢方薬以外にも、基本的な養生として、第1の皮膚を守るために、薄着はしないことです。
特に首回りや背中は冷やしてはいけません。
漢方には、風邪(ふうじゃ)が身体に侵入してきやすい場所として、うなじの「風池」と肩甲骨間の「風門」というツボがあります。
ここを温めることで風邪を防ぐ助けになりますので、カイロや湯たんぽを当てたり、シャワーを当てるだけでもいいです。
第2の胃腸を強めるために、なるべく温かい飲食物を口にして、動物性植物性蛋白質をバランスよく食べることです。
野菜は出来れば火を通したものが良く、胃腸も冷やさないことが大切です。
そして、より胃腸の動きを良くするためには、睡眠と運動です。
コロナ禍で色々と心配事があったり、外出しにくくなりストレスが溜まると胃腸の動きも悪くなることがありますが、何とか他人に迷惑がかからない程度にストレス発散をしながら、この時期をお互いに乗りきっていきましょう。