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ITとヘルスケアの最前線~vol.4

日本女性ヘルスケア協会理事/慶應義塾大学SFC研究所上席所員 野田啓一

ITとヘルスケアの最前線

日本女性ヘルスケア協会理事

慶應義塾大学SFC研究所 上席所員

野田啓一

 子供の頃のお医者さんは、問診から始まり、喉を見て、聴診器を当て、その結果をカルテに書いてお薬を出す。そんなイメージを記憶しています。今でも風邪でクリニックに行く時は、大差ないように思います。

 この行為をIT風に言い換えれば、情報収集、記録、学習、判断、情報提供です。

 病歴と現状の認識情報、視覚情報、聴覚情報を収集、結果を記録し、蓄積している医療情報と照合し診断し、処置する方法を指示する。

 これら一連の診療行為に対してITがどのように利用できるか、最前線の技術を見てみましょう。

【情報収集】

 先ずは情報収集です。情報がなければITは使い物になりません。

 ITでは、リアル空間からバーチャル空間への情報の取込みをします。これはセンシングと言われ、センサーによるアナログからデジタルへの信号変換をして情報収集をします。

 例えば、カメラで撮影し脈拍、血圧、体温を測定できるもITツールがあります。人の目ではわからないほどの微細な動きをカメラの眼で捉えて測定します。スマートフォンで撮影するだけで脈拍、血圧、体温を測定できるのです。

【ITを駆使した日本、そして世界の技術開発】

■日本~バイタル測定~

 福岡工業大学では、脈拍から体温がわかるアプリを開発しました。

 カメラを指にあてることで脈拍を測ることができ、それを元に体温の目安を割り出します。脈拍測定は、なんとなく想像できますが、血圧までアプリで測定できるのは衝撃です。 

 帯を巻く従来の血圧測定器は痛みも伴い、頻繁に測定できない場合がありましたが、スマートフォンのみで簡単に血圧計測できれば患者の負担軽減になります。

■カナダ~生活習慣病予防~

 トロント大学の方式では、自分の顔の動画を撮影するだけで、簡単に血圧を測定できるといいます。高血圧であると心筋梗塞や脳卒中の発症リスクが高まりますが、高血圧であることを自身が認識してない人も多いようです。

 スマートフォンで簡単に血圧測定できれば、心筋梗塞や脳卒中の発症リスクが改善でき、多くの命を救えるかもしれません。

 日本製のサーモグラフィカメラを備えたスマートフォンでは、搭載のアプリケーションによるAI顔認証技術で、おでこを探しだし、焦点を当て、皮膚温度から体温を測定します。

 測定結果をアプからSlackと呼ばれる、最近流行の情報共有ツールへ連携して利用者の健康状態を管理するなどのインタフェースを持ちます。

■韓国~胎児の心拍測定も可能な聴診器~

 韓国メーカーでは、スマートフォンで心拍数をチェックしたり心音を聞いたりできるというBluetooth聴診器があります。

 なんと、妊娠25週目以降の胎児の心音も聞くことができるという聴診器です。

 聴診器でスマートフォンに情報収集できれば、その情報をインターネット経由で医師へ送付し診断することができます。

 ですので、ネット環境さえある場所でしたら、世界中の患者と医師を繋いで、発展途上国においても医療を提供することができるようになります。

 それから、スマートフォンのカメラを美容に応用し美肌ケアしている簡単で楽しいアプリもあります。

 カメラで自撮りをし、肌の脂質、水分、キメの細かさなどがチェックでき、肌年齢診断等の機能を持ちます。

 健康は日々の積み重ねですが、毎日継続するのは難しいものです。美容など楽しさと連携し継続のモチベーションを向上する仕組みが求められます。

 インターネットのSNSで友達や同じ趣向の人達が集うことでモチベーション向上が期待できます。

【ディープラーニング】

 情報収集の次は、記録、学習、判断ですが、これらはディープラーニングともいわれるAI技術で実現します。

 多くの患者さんのデータをビッグデータとして記録、ディープラーニングとして機械学習し、必要に応じて判断情報を提供します。

 大規模なデータ収集と学習能力が必要となるため、世界的にも大きな会社が優位です。

■GAFA

 GAFAという言葉をご存知でしょうか。

 GAFAとは、米国の主要IT企業であるグーグル(Google)、アマゾン(Amazon)、フェイスブック(Facebook)、アップル(Apple)の4社の総称です。

 GAFAは、ヘルスケア事業に進出し、AI技術やAI技術の結果によるヘルスケアITサービスを提供します。 

 グーグルは、子会社に、2,000億円以上の資金を投下し、病院患者160万人の医療データを基にした病院向けサービスや、AIを活用した創薬事業などを行っています。

 グーグルは検索エンジンで成長した会社で、ビッグデータや機械学習は最も得意とする分野です。

 アップルはiPhoneやApple Watchといった世界中で使用されているデバイスを用いてヘルスケア事業に参入しています。

 健康管理は毎日のこと、日々チェックするのが良いですが続ける事は大変です。

 Apple Watchは、日々情報を自動的に取得、利用者が意識することなく健康情報管理できてとても便利です。

【情報提供】

 最後に、情報提供です。

 フェイスブックは、予防医療のサービスを開始しました。

これはフェイスブックに登録されている年齢や性別に基づき、健康診断やワクチン接種などがレコメンドされ、提携先の医療機関で受けることができるサービスです。

 アマゾンは、処方薬をオンラインで販売する「アマゾン薬局」の立ち上げを発表しました。ビデオ通話とチャットによる仮想診療所「アマゾン・ケア」の試験運用を自社社員向けに行っています。

 その他にもロボットによる医療支援や介護支援など、日本や世界の多くの企業が多様な視点でITとヘルスケアに取り組んでおり、今後益々の発展が期待されます。

 COVID-19により作りだされたニューノーマル時代、生活は大きく変わりました。

 ヘルスケアもITを駆使して大きく変わることが予想されます。

 人々の物理的な移動から解放される仮想診療所の概念は、先のセンシング技術と共に既存の医療に大きな影響を及ぼすでしょう。

 今後、医療のヘルスケアニューノーマル時代への進化が期待されます。