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男性更年期への漢方の処方~Vol.21

 「男性更年期への漢方の処方」 

漢方専門医 五野由佳理 

 最近では、女子高生が制服でスカートを選ばなくてもよくなったり、男性向けの化粧品が売られるようになったりと、ジェンダーフリーの社会に進んできています。

 とはいえ、生物学的に女性であれば女性ホルモン(エストロゲン)、男性であれば男性ホルモン(テストステロン)が優位に分泌され、それぞれの特徴的な身体がつくられていきます。

 女性の場合は、閉経の時期からエストロゲンの急下降が起こり、いわゆる更年期症状として様々な症状が現れてきます。一方で、男性の場合、だるさや集中力低下など年のせいだと思っていたり、不眠症、うつ病と思っていた中には、実は「男性更年期障害」であることが少なからずありますが、かなか見過ごされてしまいがちです。なぜなら、女性と違って、男性ホルモンの減少のパターンは緩やかで、時期も人それぞれなのです。

 壮年期と呼ばれる40代後半から60代のいわゆる管理職世代の男性は、職場でも家庭でも色々とストレスがかかります(女性もですが)。年齢による減少に加えてストレスや運動不足などが、更にホルモンの減少を引き起こします。男性更年期障害は別名、「LOH症候群(late onset hypogonadism)」と言われ、日本では2007年にやっと診療の手引きが出版されたほど認知されて間もない病態です。 

 症状としては、女性更年期障害のような、のぼせ・疲れやすい・めまいなどの身体症状とイライラ・不眠・うつ・意欲低下などの精神症状があります。更に、男性更年期障害には性欲低下・勃起不全などの性機能症状が起こります。テストステロン値が基準よりも明らかに低下している場合には、男性ホルモンを筋肉注射などで補充する治療もありますが、明らかに低下が見られない場合や補充療法でも改善が難しい場合には漢方薬が使われます。 

 2000年以上前の東洋医学の書物には、男性の体の変化は8の倍数の年齢に節目があると記してあります。40歳では脱毛が始まり気力が衰え、48歳では白髪が見立ち、56歳では筋肉が落ち精気が欠乏し疲れやすくなると。老化というものは、そんな昔からそれほど変化はないようです。

■漢方の処方 

 現代社会において、男性更年期障害で厄介なのが精神症状です。うつ症状や不眠が現れると抗うつ薬や睡眠薬を処方されますが、なかなか薬の効きが悪かったり合わなかったりすることも少なくありません。

 漢方では「気うつ」と捉えて”半夏厚朴湯”を使います。他にも肩こり食いしばりがあって体に力が入っている人には”柴胡加竜骨牡蛎湯”、不眠がある人には”抑肝散加陳皮半夏”などを使います。

 実際に、柴胡加竜骨牡蛎湯を飲み始めて気力が出て仕事が出来るようになり、睡眠も良くなった人もいらっしゃいました。身体症状の1つである疲労感には、漢方では「気虚」と捉えて気力をUPさせる”補中益気湯”や”十全大補湯”などを使います。性機能症状には、漢方では「腎虚」と捉えて”八味地黄丸”などを使います。 

 最近の男性は、優しく、育メンで家事も分担してくれるような人が多いように思えますが、ある海外の調査では2000年からの16年間で男性のテストステロンが実際に25%減少してきている結果が出ています。人と競わない(人と争うという行動は男性ホルモンが作用)、あまり運動をしない、夜型生活、ストレスが多いことなどが更にテストステロンの低下を加速させているようです。

 優しい男性は世の女性に好まれるでしょうが、男性も更年期障害を防ぐために人と競うような運動や良い睡眠などを心掛け、ストレスを発散し、必要であれば漢方を上手く取り入れてみて下さい。