「卑弥呼は重度の気象病だった!?~気象病との付き合い方」
文・漢方専門医 五野由佳理
今年は早く梅雨入りしたものの、梅雨入り宣言から間もなくして ”梅雨前線が消える” などと、前代未聞の現象となりました。気象現象の1%だけで起こりうることだそうです。
連日夏日を記録する中ですが、今週には一旦梅雨が戻ってきそうですね。
「梅雨」といえば、しとしと降るイメージですが、最近の気候変動では集中豪雨になったり、梅雨前線が北上して、北海道にも梅雨のような長雨がみられる年もでてきました。
よくこの時期に頭痛もちの人や喘息もちの人、アトピー性皮膚炎の人は北海道へ行くと症状が落ち着くと聞いたことはありますが、近い将来、カラッとした初夏の北海道を味わえなくなるのでしょうか。
二十四節気で、梅雨は「芒種(ぼうしゅ)」と言われ、稲や粟の種をまく時期であり、6月5日から20日の間を指します。
この時期は、気温や湿度の変化が起こりやすく、様々な不調を引き起こしやすくなります。
いわゆる最近でいう「気象病」の状態です。
雨が降る前や気圧がぐっと下がる頃に体調不良を訴える方が多くなります。
古代日本の支配者であり、豊作の吉凶を占っていた邪馬台国の卑弥呼が気候の変化に敏感だった体質を見ると、一種の「気象病」ではなかったかという説もあります。
当時は「病」という概念はなく、現在の気象病や”繊細さん”と呼ばれるHSPの症状を、「霊的能力」と捉えていたのかもしれません。実際、現代においても、HSP(HighlySensitivePerson)症状がみられる方の多くが「霊感がある」と感じている方が多いです。
「気象病」は特に女性に多く、女性ホルモンの変動があったり、片頭痛もちの方にみられやすいですが、最近では、COVID-19感染症後だったり、男性でもみられることがあります。
「気象病」の症状としては、頭痛、倦怠感、めまい、耳鳴り、たちくらみ、動悸、関節痛、咳、鼻炎、不安感など多彩です。
原因としては、内耳の気圧センサーが感知して自律神経のバランスを崩すとの説があります。
一方、漢方医学的に考えると、以前のコラムでもお話したように梅雨の湿気は『水毒(すいどく)』または『水滞(すいたい)』という状況です。
身体の中の『水』の滞(とどこお)りがあると、頭痛、めまい、むくみ、関節痛、食欲低下が出てきます。
漢方薬であれば、「五苓散(ごれいさん)」、更に胃が弱く、たちくらみがあるときは「半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)」を使用します。
普段の生活では、余分な水分を溜め込まないようにするためには、適度な運動をして汗をかいたり、湯舟に入ってじわっと汗をかくことをお勧めします。
身体が冷えると水分を溜め込みやすいので、冷房にあたり過ぎないようにしたり、冷たい飲食を控えるようにするといいでしょう。
逆に水分を過度に制限する必要はありませんが、出来るだけ常温から温かい飲み物をお勧めします。
韓国では、トウモロコシのひげのコーン茶などがむくみ予防で飲まれていますし、日本でも昔から小豆のゆで汁がむくみに使われていましたが、いずれもカリウムが含まれているからだと考えます。
野菜は”短時間で”ゆでたり、蒸したり、海藻類なども摂取するといいでしょう。
ただ、腎障害のある方は、カリウムは気をつけて摂取すべきでしょう。
また、梅雨の時期には、日照時間が少ないため、幸せホルモンで知られているセロトニンの分泌促進が妨げられ、気分が落ち込んだり、不安感が出現したりすることがあります。
更に、セロトニンから作られる睡眠に関わるメラトニンが減少してしまうと、睡眠リズムが不安定になってしまいます。
そこで、不安感や睡眠リズムを調節する漢方薬として、「加味帰脾湯(かみきひとう)」という薬があります。これは、不安やストレスを軽減するといわれているオキシトシンの分泌を促進する作用が報告されています。
夏本番に向けて、梅雨の季節を賢く上手に過ごせることを願っております。