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【大惨事をもたらした歴史に残る“オナラ”】の話~医療の歴史~Vol.16

 

【歴史に残る“オナラ”の話~医療の歴史】 

                             日本女性ヘルスケア協会長 鈴木まり 

 

「2L以上の瀉血で全ての病気を治す」「浣腸は最強医療でエジプトのファラオには肛門専門の門番がいた」「アヘンでみんな元気」・・・ 

かつて、世界のあちこちでは、恐怖に身を震わせるほどの医療の闇歴史がありました。 

「医師」や「医学・医療」という分野がしっかり確立する前の時代からの様々な独自の研究と歴史を辿って、今の医療が確立されています。 

 

 今回はその中でも「歴史に残るオナラ」のお話をしたいと思います。 

 私たち人間は食べ物を口に運び、唾液に含まれるアミラーゼという消化酵素によって食べ物が胃に届くまでの間の消化を助けるます。また、食べ物が食道を通過して口から胃に届くまでには、実に50もの筋肉の働きがあります。 

 胃では食べ物と胃液は粥状に混ぜられ胃酸による殺菌とたんぱく質の分解が行われます。その後、徐々に十二指腸へ運ばれ、膵液と胆汁により、たんぱく質、でんぷん、脂肪を分解し、小腸へ移動し、たんぱく質と糖質、脂肪、ビタミン・ミネラル、水分などが体内に吸収されエネルギーになっていきます。そして、大腸へ移動した後は水分、ナトリウム、カリウムの吸収が行われ、何十億という細菌類の助けを借りて食物繊維が消化され便を形成していきます。 

 ちなみに、食べ物が口から肛門まで移動する時間には男女差があり、男性は約55時間、女性は72間と言われています。

 更に、食物繊維は消化にかかる何十億もの腸内細菌を喜ばせ、病気のリスクも減らすというのは既に健康の常識になっており、科学者もこれを認めているのですが、「食物繊維がなぜ細菌類を活発にさせて健康に関わるのか」という理由は今のところ分かっていません。 

 さて、オナラはというと、食べ物を呑み込んだときや、緊張していて何度も唾を無意識に呑み込んでしまう時に一緒に体内に取り込んでしまう空気と、胃液が膵液により中和される際に発生するガス、腸内細菌が発生するガスがあり、常に私たちのお腹ではオナラやゲップでの排泄と、オナラの発生とのバランスをとっており、通常コップ一杯程度のオナラがお腹の中に常にある状態です。

 オナラの成分は、二酸化炭素最大50%、水素最大40%、窒素最20%からなっており、少し意外かもしれませんが、メタンガスを排出するのは1/3の人だけといいます。 

 

 地球温暖化が国際的に問題視され始めた20年ほど前には、アメリカの食肉牛の牧場での牛のゲップのほとんどがメタンガスで、牛の牧場が多くの温暖ガスを排泄しているなどというニュースも良く目にしました。この頃に時折冗談で、メタンガスを含むオナラで温暖化が進むなんて発言している方もSNSで目にしましたので、オナラ=メタンガスと思い込んでいる方は多いかもしれません。 

 ほとんどの場合メタンガスでないとなると、ではあの不快なオナラの臭いの正体はなんなのでしょうか。 

 

 それは、なんと硫化水素です。 

 硫化水素というと、火山ガスでの温泉入浴中の死亡事故や自殺などで使用される猛毒ガスです。もちろん、オナラに含まれる硫化水素は超超微量なので臭いを直接嗅いでも死ぬことはありません。むしろ、硫化水素などの猛毒は、致死量までいくと人間は嗅覚麻痺を起こし臭いを感じなくなるものです。 

 ただ、過去には侮れないオナラ爆発事故が何度も起きていました。 

 それも、医療現場でです。 

 1978年にフランスのナンシーで、外科医が69歳の男性の直腸に電気で熱したワイヤーを通してポリープを切除しようとしたところ、腸内の全てのガスが合わさったところに通電してしまい、患者のお腹は大爆発の大惨事という事故がありました。患者の行く末は説明するまでもありませんね・・・。 

 その後も各国各地で同じような事故が相次ぎ、原因を追究。 

 現在では、腸の手術の際、二酸化炭素を注入して腹部を膨らませてから腹腔鏡手術をしています。そのおかげで過去の痛ましい爆破事故は避けられています。 

 

 最後に、1日の排便の平均値のお話をしたいと思います。 

 欧米人の1日の平均排便量は約200g。年間で80kg。一生のうちに6350kgもの“うんこ”をします。 

 1gのうんこには400億個の細菌と1億の古細菌が含まれています。 

 この菌の数字を見ても、大腸にいかに細菌が存在し、細菌類の助けがないと私たちは消化できないということが分かります。 

 この菌ですが、マウスは大腸ではなく小腸に癌ができるのに対し、人間は小腸ではなく大腸に癌ができ、現在においては大腸がんは日本人女性の死因上位を占めています。 

 なぜ大腸に癌ができやすいのかというのは分かっていませんが、大腸におびただしい菌がいるせいではないかというのが現在の研究のところです。 

 

 フィンランドは、発酵したニシン、毎食のヨーグルト、サワークリーム、チーズなどの発酵食品と食物繊維の摂取がとても多い国です。更に、大腸がんの発生率がとても低い国としても知られています。まだ理由が解明されていませんが、やはり食物繊維と発酵食品などの菌類というのは相性がいいのは良いので、悪玉を増やさないように「良い菌」と食物背にを積極的に摂取して、大腸がんの予防、便秘の予防、メタンガスを発生させない良いオナラ習慣を心がけたいものです。