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遠隔診療とICT~Vol.11

 

  

 遠隔診療とICT    

2021.8.29

                                                                                  慶應義塾大学SFC研究所 上席所員   野田啓一 

遠隔医療とは、情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為全般を指します。遠隔医療のうち、医師と患者間で診察、診断および処方等の診療をリアルタイムにより行う行為をオンライン診療といいます。   

日本のオンライン診療は、可能な限り多くの診療情報を得るために、リアルタイムの視覚及び聴覚の情報を含む情報通信手段を採用することが明示されています。わかり易い例ではテレビ電話を使った診療です。2020年4月、政府は新型コロナによる院内感染のリスクを回避するため、特別にオンライン診療サービスを解禁しました。以前は、オンライン診療サービスの利用は初診から認められておらず、対象疾患も高血圧や糖尿病などの慢性疾患に限定されていました。新型コロナの感染が収束するまでは、この制限が解除され、新型コロナの疑いがある患者を含め、発熱や頭痛などの急性症状のある患者が受診できるようになったのです。しかし、厚生労働省の資料によると、オンライン診療を行っている医療機関は少ないようです。電話を含む遠隔診療を行っている医療機関は、全医療機関の約15%に限られ、初診から遠隔診療を行っているのは約6%にとどまっています。ほとんどの相談は電話で行われており、オンラインでの初診数は増えていないのが現状です。   

中国では10年以上前より、50万人の医師のデータベースを持つ企業が、15分で50元(約800円)など、医師が自分で価格を設定して時間単位で料金を徴収する電話相談サービスを提供しており、患者は希望する医師を選んで相談でき、医師は自分で価格を設定できるようになっているのです。中国では、病院での診察の待ち時間の長さが、待ち時間代行業があるほど問題になっていたので、電話での相談が便利だったのです。   

現在の中国では、オンラインでの予約や相談は、テンセントが支援するWeDoctorや、3億4千万人以上の登録ユーザーを持つ健康管理アプリ「Ping An Good Doctor(平安好医生)」により、新型コロナウイルスの発生時には無料でオンライン相談を行っており、オンライン化の拡大を加速させています。患者は健康管理アプリを使ってオンライン相談を開始すると、チャット形式でAIアシスタントが症状、年齢、性別など基本事項を確認し、そのあと医師が診断やリハビリテーション指導、薬物使用に関するアドバイスを行う。初期段階のスクリーニングにAIを活用することで、1日40万回の診断を行っているといいます。   

アリババ(中国)の関連研究機関であるAlibaba DAMOは、Alibaba Cloudと共同で、AIを使ったCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の診断技術を開発しています。この技術は、COVID-19が疑われる患者のCT画像をAIで解読するもので、解読時間は20秒以下、解析結果の精度は96%となっています。   

日本では、読影医と呼ばれCTやMRI等の断層画像を専門的に診断する放射線診断専門医がいますが、この専門医の不足により年間画像診断件数1億5000万件のうち、放射線診断専門医が診断しているのはその約30%に過ぎず、残りの約70%は非放射線医が診断している状況です。AIによる画像診断による専門医不足の改善を期待されます。以前より医療資源の偏在は指摘されていましたが、COVID-19の発生後、医療資源の配分のプロセスはより困難になり、資源のバランスの取れた配分を維持するための新しい管理方法が必要です。遠隔医療は、COVID-19患者のケアを提供するための優れた戦略になる傾向がありますが未だ浸透しているとは言えません。   

ICTの発展に伴い通信速度が向上し、遠隔医療の応用は診察だけにとどまらず、遠隔ロボット手術や遠隔超音波診断にも応用できるようになりました。また、AIロボットを使って病棟で薬を届ける事例もみられます。近い将来、遠隔での人工呼吸器の調節、インテリジェントな病棟の点検・処理システムが導入され、スマートフォンのアプリケーションで呼吸数などの身体的指標を評価できるようになり、アウトブレイク時に医療従事者が感染する可能性を大きく回避することができます。   

今後注目したいキーワードは、“分散”です。飛行機からドローン、発電所からソーラーパネル、オフィスからホームワーク、病院から在宅医療、中央銀行からブロックチェーンなど、多様な分野で分散が進んでいます。ITシステムもこれまで多くは中央集権型といわれるものでしたが、非中央集権型の分散技術が注目されています。ビットコインなどのブロックチェーン技術も分散台帳と言われる分散技術です。非中央集権で分散されたシステムは障害に強くどこか壊れても残る部分で機能し続けます。また、一部が改変されても、残りと比較して間違いを修正します。全体で1万3000以上にもなるシステムの過半数が同時に改変されない限り正しく復元します。これまでの中央集権的なシステムは2重または3重にバックアップすることが多いですがビットコインの1万以上ものバックアップは桁違いです。分散システムは、個々には比較的シンプルな機能でも全体として大きな仕事を実現します。2020東京オリンピックで多数の小さなドローンが集まり、自律分散協調することで大きな地球儀として表現されたのは印象的です。医療への応用では、ドローンとして宅配に利用されます。日本でも旭川医大などオンライン診療で処方しドローンがお薬を運ぶ実用化を目指しています。   

COVID-19もまた、一種の分散型システムといえるでしょう。他の分散型システムと同様に、個々の機能は単純ですが、それが分散して大量に存在すると、大きな影響を与えることになります。そのすべてを根絶することは困難です。分散に対抗するには、分散化が有効なようです。人々の行動は集中から分散へと変化していきます。医療は、病院から在宅医療にシフトすることでクラスターを回避できますし、医療従事者の仕事をAIやドローンに分散させることもできます。遠隔医療やICTは、ポストコロナの時代にますます重要な役割を果たすでしょう。